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童話/民話/ショートストーリー

  




 黒浜沼の河童


 二 村の人達と仲良し
「此の頃沼に河童がいるみてえだな」
「うん。荒川の河童と違って人なつっこそう河童だで。
昨日もうちの太郎吉が駆けてきてな〈ちゃん、沼で釣りしてたらな。
外れたウキを投げてくれた〉と喜んでいたぜ」
「隣の太平の家じゃ、おととい暗くなったで田の草を半分残して
帰ったら翌朝奇麗に草がむしってあったと、誰だか知らないが
草むしってくれて有難うよ。ここさキュウリを置いておくから
よかったら食いなって言うと、二匹の河童が出てきて丁寧に頭さ
下げてキュウリを二本持っていったと夫婦で住みついたらしいな」
「ふーん。キュウリ二本とは安いもんだ。こんだ田植でも頼むかな」







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  翌年、試しに村人の一人が苗の束の側に竹のこの皮に包んだ握り飯を置いて
「河童さんや、田植は出来るかね」
 沼に向かって言って帰ると翌朝奇麗に植えてあったと。沼の側の田んぼはずぶりとヘソまでもぐることがあってあぶねえからこれから河童に頼むべという人がでてきた。
河童は昼間はあまり姿を現わさず夜になると働く様子だった。河童は月が出ている間に働くうで雨の夜や新月の夜は田の草取りも田植もやらなかった。
そういうときは御礼に置いておいたキュウリやまんじゅうはそのままにしてあったので、なかなか義理がたい河童だと評判になっはじめ、水遊びをする子供に河童に引きずり込まれるど、注意していた大人も何処からきたか分からねえが荒川の河童とは性根が違うようだ。
子供が沼で遊んでいても河童がいるから心配あるめえということになった。一面に稲が植えられると眠くなるような蛙のなく声が夜通し聞こえるのが例年のことであったが近頃は月の奇麗な晩など草笛の音色が流れた。あの河童が吹いているんだんべかと夜中笛の音をたよりに確かめにいった者がいた。
沼の側のお堂の藤棚の下でやはり河童が笛を吹いていた。側に雌らしい河童が座ってうっとりしていたという。おどかしちゃ悪いと思いそれ以上近寄らず見ていたがあまりうめいもんで聞き惚れていたら半刻も吹いた後沼に戻っていったとか、頭の皿が乾き始めたんだべ、ということだった。
数年後のことだった。その年は梅雨になっても雨が降らず折角植えた苗が枯れてしまうので毎日沼の水を汲み上げては天秤棒で担いで田に運んでいたが、水運びは骨の折れる仕事だ。沼の側の田はまだしも沼から離れた田は稲が枯れ始めたので神主を呼んで水神様に雨乞いの祭りをすることになった。
その晩神主の夢枕に立った水神さまから(河童に頼め)とのお告げがあった。人の良さそうな沼の夫婦河童は一畝くらいの田の草や田植はできてもそんな神通力まではあるめえとは思ったものの神主は水神様のお告げなので沼の河童に雨降らしてくれと頼んだ。翌日、遠くの田からおかしな天気雨が降り始めた。
半刻(一時間)ばかり一反ほどの田に雨が降ったかと思うと半刻ばかり止み、また半刻ばかり降ると半刻ばかり止みそんな雨が二日ばかり続いたが三日めになると半刻降っては一刻(二時間)とまりして次第に降る時間が少なくなっていったともあれ枯れた稲が生き返り始めたので早速雨乞の願いを聞いてくれた水神様に何人か村かの人達が御礼に集まってきていた。村人の一人が沼の向岸を指差した
「あれ、見ろや」
そこにはよろめきながら、あかねに支えられた与太郎が空に向かって両手を差し出していた。
「河童さんもういいいよ」
「暫く休みな、お蔭で助かったよ」
 与太郎河童は不得意な雨降らしの技を三日間やり続けたのでふらふらになっていたのである村人たちが皆で拍手をしたときである。突然稲光りがすると大きな雲が沼の周辺を覆い大粒の雨が降り始めたのである。
「降った!降った!」
 ずぶ濡れになりながら村の人たちが喜びの声をあげた。
 田に溢れた水はみるみる水路に流れ込み半分に干上がった沼に流れ込んでいった。

「良かったね。人の役に立って、皆笑っているのは喜んでいるからなのよ」
 沼のほとりにあかねに支えられて座ったまま与太郎は七年前大勢の仲間の河童の前であざけられた日のことを思い出していた。
















































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